「留学体験記」University of Edinburgh, MSc Geoenergy, KWさん

全国 2024.12.17 

1. 留学の動機・エディンバラ大学を選んだ理由
留学を決意した理由は主に2つあります。
一つ目は、人生の中で英語を使う環境でスキルを磨きながら、異なる文化を理解したいと考えていたためです。田舎で育ち英語とは無縁でしたが、大学時代に初めて参加した短期留学をきっかけに、海外や国際交流に対する好奇心が膨らみました。特に、英語力を高め、ネットワークを広げることへの意欲が強くなり、その後も何度か短期留学に挑戦しました。しかし、短期では土地に慣れても、生活や学びの深さに限界があると感じ、いつかは正規留学をしたいと考えていました。
2つめは、学びたい分野が明確になったことです。社会人として働く中で、脱炭素(気候変動の原因である温室効果ガスの排出量をゼロにすること)に関する調査を担当する機会があり、環境問題の深刻さと、自分の理解が遅れていたことに危機感を感じました。アウトドアスポーツが好きなことも後押しし、環境問題やその対策については週末も調査に時間を費やしてしまうほど興味・熱意が止まりませんでした。しかし当時(2022年初期)、知りたい分野について日本語で得られる公的な情報には限界があり、もっと深く学び、地球規模での視野を持つためには海外で学ぶ必要があると考えました。

留学を決意してからは、国・大学調査を行い、結果としてイギリスに受験校を絞り、エディンバラ大学を第一希望として受験しました。
イギリスに絞ったことは、修士コースが1年のため、生活に掛かる金銭的負担を軽減できると考えたためです。
エディンバラ大学を第一志望にした理由は以下の通りです。
  1. 希望する分野とコースカリキュラムが最も一致したこと。
  2. 脱炭素分野への興味のきっかけとなったCCS (二酸化炭素回収・貯留)について、世界で初めての無料オンラインコースを開講しており、先駆けた取り組みをしていると考えたこと。
  3. CCSに関わるアソシエーション (UKCCSRC, SCCS)で主導的な役割を担っていることから、本分野でリーダーシップのある大学だと考えたこと。
  4. 特に興味を持っていた、二酸化炭素を岩石に固着させるプロジェクトに参加している実績があったこと。

修士課程を修了した今、この選択は正しかったと確信しています。尊敬する先生方から直接学び指導いただけたことは、人生の大きな財産となりました。もし今留学を考えている方がいらっしゃれば、コース選びは焦らず時間をかけシラバスをしっかり読み、ぜひ納得いく選択をしていただけたらと思います。時間が掛かり戸惑いも生まれるかもしれませんが、その分想いの伝わる志望動機書が書け、入学後のミスマッチも無いと思うためです。

2. 受験について
イギリスの大学院の多くは、志望動機書、推薦状、学部時代の勉強内容及び成績、英語試験の結果を基に選考が行われます。学部時代の成績は大学ごとに評価基準が異なるため、GPAをアメリカの標準の計算方法で再計算し、基準を満たしている証明を添付しました。
英語試験は、主にIELTSまたはTOEFL-iBTでスコアを目指すことが多いですが、過去に英語力理解のために受験した経験があること、またスピーキングは面接形式であることがやりやすかったことから、IELTSを選択しました。最初に12月に受けた試験ではスコアが6.5と、大学が求める最低スコアの7に届かなかったため、冬は集中的に勉強しました。
具体的には、以下を実践しました。

  • Reading:Cambridge EnglishのIELTS公式問題集を使用し、1日1テスト行うことを自分のルールとした。およそ4テスト×4冊を2周したところで、スコアが上がり、自信がついた。
  • Listening:得意だったため、移動中等の隙間時間に問題を聞き耳を慣らした。
  • Writing:Udemyのコースを受講して書き方のコツを学び、過去問やオンライン上の練習サイトで練習を重ねた。
  • Speaking:ネイティブの友人と練習し、フィードバックを基に改善した。お題(映画、スポーツ等)に結果が左右されがちだったため、予想される話題についての事前準備や、話せない分野を振られたら話しやすい分野に流れを持っていけるよう意識した。
約1ヶ月の集中勉強の結果、2月初めの試験でBand 7.5を取得し目標を達成することが出来ました。仕事と両立した試験勉強はチャレンジングでしたが、支えてくれたり共に勉強してくれた仲間の存在が大きな力となりました。

3. 周りの留学生・留学の雰囲気・授業の進め方など
School of Geoscienceの修士は、どの専攻も比較的少人数制(概ね15-30人) で教授との距離が近い印象があります。私の学科は17人で、アジア、中東、ヨーロッパ、アフリカ等、様々な国からの学生で成り立ち、半数以上が社会人経験を挟まず大学からストレートで来ていました。多様な国から集まった学生と共に学び、意見を交換し合えたことは、視野が広がり大変良い経験でした。

授業は、基礎的な分野から始まり、徐々に実践的な内容へと進んでいきました。各コースは、予習、授業(+プレゼンテーション)、復習に加え、評価対象のアサインメント(レポート、プレゼンテーション、試験、ポスター等)が適宜課されます。アサインメントの結果は点数とともに先生からのコメントや添削がいただけます。
第1セメスターでは、環境化学や地質学、応用水文地質学などの基礎を学び、第2セメスターではそれらの知識を活用して、低炭素エネルギー技術や環境モニタリング方法について学びました。修論でプロジェクトではスコットランドの水素プロジェクトの市場動向や将来の需要量やインフラストラクチャーの分析を行い、データベースを作成しました。そして将来の産業の脱炭素に向けた地下水素ストレージの需要見込みを2030年と2050年のシナリオでGIS(地理情報システム)を使い予測しました。

技術スキル・ソフトスキル共に、今後に生かせるものを短期間で効率的に身に着けられる良い構成になっていたと感じます。技術面では、授業を通じてインプット、アセスメントを通して理解のアウトプット、先生からのフィードバックで理解の修正をしました。ソフトの面では、授業やアセスメントを通して、レポートライティングやプレゼンテーション、グループワーク等のスキルを伸ばすことが出来ました。分野の尊敬する専門の先生方に見ていただきアドバイスをいただけること、間違いを訂正していただけることは大変嬉しく、貴重な機会なので最大限の理解をアウトプット出来るよう意識しました。全ての頂いたコメントが次に向けたモチベーションや今後に向けた財産となりました。また、グループや個人でプレゼンをする機会等が多く、クラスメイトの良いところを学び、互いに高め合うことが出来ました。

4. 留学生活について
ー勉強ー

留学生活は、人生で最も勉強したチャレンジングな日々でしたが、同時に、最も充実した一年でした。
専攻分野に対し強い興味や概要の調査をした経験はあったものの、テクニカルな側面を掘り下げて学んだ経験は無く、分かることが無い状況からのスタートでした。そのため、最初は授業についていくのに大変苦労しました。修士課程は1年と非常に短く、莫大な勉強量と課題量に加え、授業は専門用語や基礎知識が前提となって進むため、知識が不足し時間が足りないと痛感しました。先生に相談し、追加で基礎的な本を紹介してもらうなどして猛勉強しました。毎日が忙しく、深夜まで勉強に追われる日々が続きましたが、クラスメイトにも恵まれ、質問をし合える良い関係を築くことが出来、周囲の支えのおかげで理解を大きく底上げすることが出来ました。
タイトなスケジュールの中で、いかに効率を上げ、優先順位を整理するか、自分自身と向き合い、自己理解(集中出来る環境・時間帯・適切な息抜き手段等)を深めることができたことも、この一年で得た大切な学びです。

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※お世話になったKings Buildingキャンパス入口。理系分野は市内から3kmほど離れたこのKings Buildingキャンパスが主要キャンパスです。

―課外活動ー
コースのField Workでは、スコットランドの北部・西部を訪れ、二酸化炭素貯留に適した地層を観察したり、揚水発電所や放射性廃棄物処理施設を見学する機会をいただき、授業で学んだ技術への理解を深めました。移動中の景色は、多くの建物にソーラーパネルが導入され、Wind Firmが多くあり、再生可能エネルギーが地域の生活に溶け込んでいる様子も印象的でした。
学外活動では、エディンバラで開催された北極に関する国際学会や、水素ストレージに関する学会、エネルギー分野のイベントに参加をする機会を得て、業界の最先端の情報に触れることができ、またイギリスの脱炭素の実践的な取り組みをより深く学ぶことが出来ました。各イベントは主にヨーロッパの参加者が多かったですが、男女比はほぼ平等な印象を受け、女性の本分野での活躍、特に檀上でプレゼンをしている姿や会議をリードしている姿が印象的でした。

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※参加した脱炭素・再生可能エネルギーのイベント

ー生活ー
生活中に円安が進み、1GBPは大学に申し込んだ時期と比べ約30-40円、渡英時と比べて約10-20円ほど上がってしまいました。物価はほぼ日本の2倍近くと高いため、基本自炊し、マイボトルを持参する等して出費を抑えるよう心掛け、移動は自転車を使うようにしました。また、大学寮で生活をしましたが、洗濯機を使うのにお金が掛かり、寮の学生数に対してかなり数が少ないので、部屋で手洗いもするようになりました。

―息抜きー
セメスター中は学業に追われ余裕があまりありませんでしたが、年末休みにはエディンバラや他の都市を観光したり、ランニングクラブでエディンバラの七つの丘を走るイベントに参加したり、友人とグラスゴーまでサイクリングをしたりと、スコットランドの自然を楽しむことができました。

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※エディンバラの7つの丘を年明けに走り抜けました。

特にクリスマスの日は印象に残っており、ほぼ全てお店も全て閉まり、バスも減便され街は閑散としていたのですが、朝9時半からHolyrood Parkで行われたPark Run(公園を5km走るイベント)に参加したところ、約660人のコスチュームを着たランナーと多くの犬たちが集まり、大所帯でHolyrood Parkを一周走りました。アクティブなクリスマスの過ごし方に驚き、この土地・文化が更に好きになりました。

また、身体を動かすことが好きなので、運動の時間を少しでも取るよう意識し、6月に人生初のハーフマラソンに挑戦しました。大会に向けたトレーニングを通して、ローカルの友人もでき、レース当日は悪天候にも関わらず、沿道やベランダからの温かい応援を受けて、嬉しく完走することが出来ました。エディンバラは無料のランニングクラブがほぼ毎日どこかしらで開催され、自由に参加することが出来ます。
セメスターが終わった後は、週に一度バスケットボールクラブに参加し、多国籍な仲間とともにチームプレーを楽しんでいます。

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※バスケットボール。

5. 結び
今年世界各地で洪水や災害が多発し、環境問題の深刻化がより明らかになっています。温室効果ガスの代表である二酸化炭素の削減は、個人、企業、国とあらゆるレベルでの取り組みが不可欠です。世界で共通の危機と目標があるからこそ、コラボレーションが重要だと感じています。
留学を通じて、脱炭素に関する技術的スキル、ソフトスキル、自己理解そしてネットワークを深めることができました。急速に進化している本分野の最新の情報を取り入れながら、学びを活かし・深め続け、地球規模の課題である気候変動の課題解決に積極的に貢献出来るよう努めていきたいと思います。

この一年は、心から興味ある分野に没頭し、最先端で活躍する先生方から直接指導を受け、同じ志を持った仲間が世界にでき、生涯の友人・ネットワークを作ることができた、かけがえのない財産となりました。また、日本では女性のまだ少ない技術系分野において、多くの女性の仲間やリーダーの姿を見ることが出来たことも、大きな刺激となりました。
エディンバラの自然豊かで美しい街並みと、温かくアクティブな人々に囲まれた環境だからこそ、常にモチベーションを高く保ちながら充実した日々を過ごすことが出来ました。本留学を支えてくださった全ての方、留学中に出会った全ての方に心から感謝をしています。

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※エディンバラできれいなオーロラが見えました。

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※息抜きによく登った、お気に入りのSalisbury Crags。家から走って5分。