エディンバラの魔法:ハリーポッター・スポットを紹介
世界中で愛されているハリーポッター。その誕生の秘密がエディンバラにあることをご存知でしょうか。スコットランドの首都エディンバラは、ハリーポッター作者J.K.ローリング(以下J.K.)が同シリーズの執筆をしていた場所です。シリーズ最初の作品「ハリーポッターと賢者の石」は、エディンバラで執筆されました。 そのため、エディンバラは「ハリーポッター生誕の街」としても知られています※1。
この記事では、ハリーポッターの切り口からエディンバラの魅力を探ります。エディンバラの基本情報、観光情報、歴史、そしてハリーポッターの3つのスポットを巡ります。この記事を読めば、エディンバラの魅力がハリーポッター誕生にどのような影響を与えたのか、ヒントが得られるでしょう。
目次
筆者紹介
本稿の筆者M.I.はエディンバラに2度留学しました。1度目は日本の大学からエディンバラ大学に交換留学生として派遣され、2度目はエディンバラ大学の歴史学修士課程に進学し、2022年秋に修了しました。 学業以外の面で、エディンバラへの留学を決めた理由は、街の素晴らしさでした。実際、私のように1度エディンバラを訪れると、その魅力に引き込まれて戻ってくるという人によく会いました。
ハリーポッターといえば、私はシリーズ全巻を10回読み終え、現在11周目に入っています!もちろん、同シリーズの映画も数え切れないほど見ており、「ポッターヘッド」を自認しています。 今回は、エディンバラとハリーポッターをこよなく愛する筆者M.I.が、ハリーポッターを通してエディンバラの魅力に迫ります。「ハリーポッター生誕の地」として、また「歴史に彩られた美しい街」としてのエディンバラについて、筆者撮影の写真を交えてお伝えします!
エディンバラの基本情報
エディンバラは15世紀以来、スコットランドの首都です。スコットランドは英国を構成する4つの国のひとつであり、ロンドンのあるイングランドの北に位置します。人口は約52万6,000人(2021年)で、さらに増加すると予想されています※2。
世界遺産の街
エディンバラには大きく分けて2つのエリアがあります。中世の要塞が威容を誇る旧市街(オールドタウン)と、18世紀以降の開発がヨーロッパの都市計画に多大な影響を与えたネオクラシカル様式の新市街(ニュータウン)です。このコントラストの効いた2つの歴史的な地域は、見事に調和して並存しており、両エリアごと世界遺産に登録されています。それぞれに非常に重要な歴史的建築物が数多く残っていることが、この街に独特の個性と風格を与えています※3。
簡単に説明するとプリンセズ・ストリート・ガーデンを分水嶺として南北に分断されたエディンバラの北部エリアがニュータウン、南部エリアがオールドタウンです。東西に伸びる 2 本の大通りがあり、オールドタウンのロイヤルマイルとニュータウンのプリンセズストリートは観光客で最も賑わうスポットのひとつです。特にロイヤルマイルには長い歴史があり、西端のエディンバラ城と東端のホリールード宮殿というスコットランド王室の歴史上重要な 2 つの場所を結ぶ 通りとなっています。
'I fell in love with Edinburgh'
エディンバラは日本ではあまり認知されていないようですが、私の贔屓目を抜きにしても、本当に素晴らしく美しいところです。私がエディンバラにはじめて降り立ったとき、なんて素敵な場所なのだ、と息を呑みました。こんなに素晴らしい場所に住めることに、いつも感謝の念を抱いていました。実際に、'I fell in love with Edinburgh'というのは、エディンバラを訪れた多くの人が口を揃えて言う言葉です。
いにしえの雰囲気
初めてエディンバラを訪れたとき、エディンバラは「英国版の京都」のようだと感じました。もちろん、建物の素材や街並みの佇まいは全然違うのですが、その歴史的で素敵な雰囲気に似たものを感じたのです。その後、京都府とエディンバラ市が「友好提携」を結んでいることを知り、なんだか嬉しくなったのを覚えています。そして、そのいにしえの雰囲気漂う街並みは、まるでハリーポッターの世界のようだと多くの人が言います。
ウォーカブル・シティ
エディンバラのシティセンター※4はコンパクトなので、行きたい場所のほとんどに徒歩20分以内で行くことができます。本稿で紹介するハリーポッター・スポットも、この例に漏れません。万が一、遠出をしたくなったり、歩き疲れたりしても、他の交通手段(バスやトラムなど)を簡単に利用できます。行きたい場所へのアクセスの良さは、世界でもトップクラスでしょう。
どこへでも歩いて行けるような街のことを「Walkable City」と呼びます。実際、エディンバラはWalkable Cityの多くのランキングで上位に挙げられています。このような「歩くことができる街」は、単に観光しやすいだけでなく、そこに住む人々の生活の充実度を高める上で非常に重要な要素です。そのため、「Walkable City」の街づくりを目指して取り組んでいる例は世界中に数多くあります。
どこへでも思い立ったらすぐに行けるということは、学校や職場、街のイベントや文化活動、生活必需品に、物理的・精神的なアクセスが容易である事を意味します。そして、それはコミュニティとの繋がり、そしてエディンバラという街との繋がりを感じる事につながり、幸福度が向上する可能性を示唆する研究結果があります※5。 私は、外出時は車に依存するほかないような場所で生まれ育ったため、エディンバラ生活を経て初めて、徒歩でどこでも行けることの重要性を認識しました。
エディンバラのハリーポッター・スポット3選
前置きが長くなりましたが、このセクションではエディンバラにあるハリーポッターゆかりのスポットを3つ紹介したいと思います。
1. ヴィクトリアストリート & ウェストボウ
エディンバラのヴィクトリア・ストリートは、ハリーポッターシリーズの「ダイアゴン横丁」の構想にインスピレーションを与えたと言われています。 ダイアゴン横丁は、ハリーが魔法使いであることを知ってから最初に訪れる魔法の街です。ハリーが魔法界での旅をスタートした場所とも言え、本稿で最初に紹介するのにふさわしい場所でしょう。
ヴィクトリアストリートの魅力
ずっしり重厚な建物が特徴的なエディンバラで、最もカラフルな場所はと聞かれたら、真っ先に浮かぶのはヴィクトリアストリートでしょう。カフェ、レストラン、パブ、雑貨屋、そしてハリーポッターのショップなどが軒を連ねています。筆者もエディンバラの中の一番好きなストリートのひとつです。
美しい石畳の通りの緩やかなカーブとカラフルな店構えは、観光客の写真や絵はがきの人気スポットとなっており、エディンバラで最もフォトジェニックな場所のひとつでしょう。確かに、あのグネグネとしたダイアゴン横丁の雑多で賑やかな雰囲気に似ています。 場所はエディンバラ城から徒歩約3分。かつて公開処刑場であった、現在はパブやレストランで賑わう「グラスマーケット」と、オールドタウンを南北に走るメインストリートのひとつ「ジョージ4世橋」を結ぶ通りです。
ヴィクトリアストリートには魔法にまつわる歴史があります。ここにはかつて、1670年に魔術の疑いで処刑された、「ウェストボウの魔法使い」と呼ばれたウィアー少佐が住んでいました。テラスにあるクエーカー教徒の集会所の上に、彼の住居の断片があると言われており、ウィアー少佐の亡霊が今も通りを徘徊していると噂されています。
建設の過程
ヴィクトリアストリートは、オールドタウンの一連の整備の一環として、1829年から34年にかけて建設されました。それ以前は、グラスマーケットからロイヤルマイルへのアクセスは、ウェストボウという非常に急勾配で狭い小道を経由しており、この建設プロジェクトはその不便なアクセスを改善するものでした。新しい通りは、古いウエスト・ボウの大部分を取り壊し、新しく建設されたジョージ4世橋まで広くつながるように設計されたものです。
建築家トーマス・ハミルトンによって設計されたこの通りは、ネオクラシカル様式の建物で街を変貌させた立役者の一つであり、古代ギリシャの建築から大きな影響を受けています。通りの北側にはテラスが設けられ、その下にはアーチが連なり、後に店舗が建ち並ぶようになりました※6。このヴィクトリア・テラスは、この賑やかな通りを一望できるスポットとなっています。
カラフルなお店、興味深い歴史、不思議な魔法のストーリーがあるヴィクトリアストリート。ハリーが初めてダイアゴン横丁に来た時のように、私たちをワクワク楽しい気分にさせてくれる魅力的なスポットです。
2. グレイフライアーズ・カークヤード
次のハリーポッタースポットは、ヴィクトリアストリートから徒歩1分、世界で最も有名な墓地のひとつである「グレイフライアーズ・カークヤード」です。 J.K.が執筆のインスピレーションを得たというこの墓地には、実際にハリーポッターシリーズの登場人物の名前として採用されたと思われる方々のお墓があります。ポッター、マクゴナガル、ムーディ、スクリムジョール、ブラック、クルックシャンクス、そして、トム・リドルのお墓があります※7。
トム・リドル
このカークヤードで特に有名なのは、トム・リドルのお墓です。詳しく説明すると、J.K.によって姓と名の両方に「採用されてしまった」、エディンバラに実在したトム・リドルという方のお墓です。ハリーポッターシリーズのトム・リドルは、現代児童文学で最も有名な悪役、ヴォルデモートの本名です。
エディンバラの「本物の」トム・リドルは、1806年に72歳で亡くなった将官です。現在はヴォルデモートとして有名になり、昼夜を問わず多くの人々が訪れています。私が訪れたときは、彼のお墓はコーンとバーで囲われていました。おそらく一度に大勢が彼のお墓の敷地内に入るのを防ぐためだと思われます※8。
この「無実の」トムが生きている間は、自分のお墓が囲いによって入場制限されるほど、世界中から推定10万人以上の人々が押し寄せてくるとは思いもしなかったでしょう※9。
「忠犬ボビー」
ここカークヤードでトムに負けず劣らず有名なのが「英国のハチ公」スカイ・テリアのボビーです。飼い主である地元警察官ジョン・グレイの死後、ボビーは 14 年間も彼の墓を忠実に守り続けたと言われています。ボビーの行動に心を動かされた市民やプロヴォストたちは、ボビーが検挙されないようにライセンスを取得するための費用を工面したり、食料を確保するなどの便宜を図ったりしたそうです。あまり知られていませんが、ボビーの物語は 1961 年にディズニーによって映画化されました※10。
ボビーが亡くなった翌年の 1872 年、カークヤードのすぐ外にボビーのブロンズ像が建てられました。ボビー像は今でも多くの観光客を魅了しています。銅像とカークヤードの間には、 ボビーにちなんで名付けられたグレイフライヤーズ・ボビー・バーというパブがあり、パイ、サンデーロースト、フィッシュアンドチップスなど、英国を象徴する料理 や飲み物を楽しむことができます。
グレイフライヤーズは1562年にスコットランドのメアリー女王から寄贈された土地で設立されました。そこに埋葬された方々の重要性と全国的に重要な出来事における役割を認識し、スコットランドで最も有名な詩人であり小説家であるサー・ウォルター・スコットは、ここを「スコットランドのウェストミンスター寺院」とまで表現しました※11。
カークヤードは緑豊かで美しいオープンスペースとして地元の人々に親しまれています。晴れた日にはここでピクニックをする人もいます。
3. エレファント・ハウス
次にご紹介するハリーポッタースポットは、グレイフライアーズ・カークヤードから徒歩1分のところにあるカフェ「エレファント・ハウス」です。エレファント・ハウスはJ.K.が1996年と1997年に執筆していたカフェとして知られています。
ジョージ4世橋沿いにあるお店の一つで、アイコニックな赤色の外観がとても可愛らしいカフェです。1995年にオープンしたエレファント・ハウスは、エディンバラで最も有名なカフェのひとつで、ティーやコーヒー、軽食を提供していました。 J.K.はこのカフェで、エディンバラ城を見ることができる奥のエリアで執筆している最中に、最初の本を出版しました。そのため、エレファント・ハウスはハリー・ポッター小説の「発祥の地」と言われています※12。
私が訪れた時、カフェにはJ.K.がエレファント・ハウスを訪れたときの写真が飾られていました。また、驚いたのはカフェのトイレの中。壁一面に、世界中のハリーポッターファンからのメッセージが書き込まれていました。「ドビーに靴下を」というメッセージが多く、ドビーの人気の強さを感じたことを覚えています。
現在、このエレファント・ハウスは2021年8月に起こったジョージ4世橋の火災の影響で、残念ながら今も休業中です。カフェのオーナーであるデビッド・テイラーは、火災後の瓦礫の中からJ.K.が使用していたテーブルを発見したそうです。テーブルは水と煙の被害を受けたものの、修復は可能なようです※13。
エディンバラといえば、エレファント・ハウスや、ニコルソン・カフェ(現在は別のカフェ)など、「J.K.が執筆活動をしたカフェ」があまりにも有名なので、他のカフェは逆に「J.K.が執筆活動をしていないカフェ」という皮肉の効いた「逆・売り文句?」を使って宣伝をするという興味深い現象が起きています。エレファント・ハウスは残念ながら休業中ですが、エディンバラを訪れる際には、このようなカフェを探してみるのも面白いかもしれません。
まとめ
今回は、エディンバラの文化や歴史、そしてハリーポッター・スポットを巡りながら、街の魅力を探りました。ハリーポッター生誕の街として、また歴史ある美しい街として、エディンバラに少しでも興味を持ってくだされば幸いです。
※1 The ultimate Harry Potter guide to Edinburgh, Forever Edinburgh.
※2 'Population Estimates' by National Records of Scotland
※3 Old and New Towns of Edinburgh, UNESCO
※4 「シティセンター」とは、商業、文化、そして多くの場合、歴史的、政治的、地理的な中心地のこと。観光でエディンバラを訪れる場合、シティーセンターに行くのが一般的です。
※6 Victoria Street, Edinburgh World Heritage.
※7 クルックシャンクスやトムなど、シリーズでは綴りが少し異なる名前もある。
※8 多すぎる観光客が押し寄せたために、カークヤードの敷地に損傷してしまった所があるようです。訪れる機会がある方は、敬意を持ってお参りしに行きましょう。
※11 Greyfriars Kirkyard, Edinburgh World Heritage.
※13 Angie Brown, 'JK Rowling table saved from cafe gutted by fire'. BBC News.
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