スコットランドの"国歌"

2023.04.20 

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正式には、スコットランドは独立国ではないので"国歌"があるのは変だなという感覚をお持ちの方も多いと思います。実はそのとおりで、スコットランドを含む United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland の国歌としては、God save the Queen(King) が知られています。

この God save the Queen(King) が作られたのがいつか?ということを知っていると、スコットランドでは、この"国歌"を受け入れがたい感情を持っている方々が多いということも理解してもらいやすくなります。この歌ができたのは1744年。"ボニープリンス"チャールズが翌1745年にはスコットランドに上陸を果たすものの、この1744年には上陸に失敗したことが伝わったのです。彼がスコットランド王位を主張して、ハイランドの氏族たちとロンドンに向けて進行してきたときに、イングランドでは、この歌が人気となりイングランドの王を護りたまえ歌ったのが、当時の"God save the King"だったのです。

そのため、今では歌われることのなくなった6番の歌詞の中には、次のようなフレーズがでてきます。

Rebellious Scots to crush,
God save the King.

反逆せしスコットランド人を破らしめむ
神よ女王(国王)を守りたまへ

Wipipedia日本語版(http://ja.wikipedia.org/wiki/女王陛下万歳より)

ただし、この歌詞は1837年出版の本にはでてくるものの1745年出版の本にはでてこないため、ジャコバイトの乱のときにはこの歌詞の部分が歌われていなかったという説もあります。

さて、スコットランドの正式な国歌といえども、こういう背景がある歌を国歌とするとどんなことが起こるかという例をあげましょう。サッカーのスコットランド代表チームがスコットランドで試合をするとなれば、必ず国歌斉唱があります。実際に God save the Queen が歌われたことがあるのですが、自国の国歌斉唱というのに会場からはブーイングが鳴り止まなかったそうです。

こんな事態が続いて、ラグビーの代表チームは、スコットランドのフォークグループ、ザ・コリーズが作った"Flower of Scotland "という歌を Offical Antem として採用し、続いて1993年からはサッカーの代表チームもこの歌を Offical Antem として歌うこととなり、スタジアムから国歌斉唱時のブーイングはなくなりました。

では、この"Flower of Scotland "はどんな歌詞なのか気になりませんか?それがなんと1745年のジャコバイトの乱から遡ること431年、ロバート1世がイングランドのエドワード2世を破った1314年のバノックバーンの戦いにその題材がとられているのです。

1番の歌詞をみてみましょう

O Flower of Scotland,
When will we see
Your like again
That fought and died for
Your wee bit hill and glen.
And stood against him,
Proud Edward's army,
And sent him homeward
To think again.

(http://en.wikipedia.org/wiki/Flower_of_Scotlandから)

すごいと思いませんか?いまだに700年前のことを思い続けているというのも。2,3番の歌詞もぜひ一度見ていただけるとよりその強い思いが伝わると思います。 この歌詞はやり過ぎだという議論もあって、別の曲にすべきだという主張もあるそうです。そこで、上記サイトにはスコットランド国歌としてはどの曲がふさわしいかという2006年になされた調査結果も載っています。

曲名 得票率(%)
Flower of Scotland 41%
Scotland the Brave 29%
Highland Cathedral 16%
Is There for Honest Poverty 8%
Scots Wha Hae 6%

Flower of Scotland と Scotland the Brave は、10ポイント程度の差でスコットランド国歌の座を争っていると見ることもできましょう。 正式な"国歌"が制定されるまでには、まだ時間がかかるのかもしれません。