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「留学体験記」The Glasgow School of Art, Design Innovation & Service Design, KHさん

14.Mar.2024 

皆さん、こんにちは!日本スコットランド交流協会です。
スコットランドへ留学をされた2021年度JSA奨学生のKHさんにインタビューしました。その内容を今回はリポートしていきます!

〈目次〉
・留学先の大学院、学部
・留学の動機・背景は...?
・大学院生活で経験したことは...?
・受講したモジュールの例
・セメスター期間中の学習例
・修士論文
・課外活動
・現在と今後について

Q KHさん、大学院と学部を教えてください

グラスゴーにある The Glasgow School of Art にて、 Design Innovation & Service Design の修士課程を修了してきました。この大学は The University of Glasgow の連合校でもあり、スコットランドで唯一の公立美術大学でもあります。

Q 留学の動機・背景は?

この大学、そしてスコットランドを選んだ理由としまして、私の価値観とそれらを育んだ大学生活での経験が関わってきます。

  • 私の価値観
  • 幼い頃から私にとってデザインとは、使いやすさと美しさの融合を表現するためのひとつの手段に過ぎませんでした。ところが、下記で紹介する日本やスウェーデンにおける学びや、ボランティア先などでの交流における様々なバックグラウンドを持つ人々との出会いや経験によって、デザインに対する新たな価値観を得ました。デザインを単なる機能性と審美性の組み合わせから、人々の日常に潜まっている感情や思考を汲み取って生活をより豊かなものにするための活動であると考えるようになったのです。さらに、学部での一部の授業により、社会的な期待から逃れられない人々のためのユニバーサルデザインの価値を深く理解しました。その理解を一層強めたのが、盲老人ホームでのボランティア活動です。
  • 盲老人ホームでのボランティア活動
  • 盲目の方がいらっしゃる老人ホームで、ボランティア仲間とお琴とフルートの演奏をさせて頂くボランティアを高校生の頃からさせて頂いております。演奏活動ではあるのですが、利用者の方やスタッフの方、そして一緒に活動させて頂いている先生や仲間との交流の中で、ユーザーやターゲット層に対する思慮の足りない軽率なデザインが、いかに平等なアクセシビリティを制限しているかを学びました。さらに、サポートを必要とする人たちは(老人ホームなどという環境にあれば別ですが)パブリックな場所において自分の障害や特徴を強調するような特別な製品を使いたがらないことにも気付かされました。
  • ユニバーサルデザインの学習
  • そんな中私は当時通っていた大学で、ユニバーサルデザインの授業を受講し始めました。前々から興味のあった分野だったのですが、たまたまボランティア先で上記の「気付き」を得た時に受講しており、今思えば奇跡的なタイミングだったのかもしれません。その「気付き」とこの授業での学びが頭の中で融合し、上記の様な方々、特に社会的マイノリティの方々のために、使用する際にトラブルがおこりにくいかつ特別感を醸し出さない控えめなデザインのユニバーサル製品を研究し、それを世界のスタンダードにしたいという目標を立て始めるようになりました。
  • スウェーデンへの交換留学
  • そのような大きな目標を立てた私でしたが、当時通っていた大学では美学と芸術学を研究しており、デザイン学を専門的に学ぶ環境が無い状態でした。そこでなにか抜け道はないかと模索したところ、交換留学提携大学の一つであるスウェーデンのLinnaeus Universityにてそのような学習ができることを知りました。こんな幸運を逃してはいけないという強い気持ちで、より深い学習を求めてスウェーデンに交換留学へいくことを達成しました。そこでは主に製品に対するユニバーサルデザインとは別に、サービスそのものに対するデザイン学問の概念であるサービスデザインとの出会いがあり、「私が本当に学びたかったことはこれなんだ」と感銘を受け、大学院という次のステップでサービスデザインの学習をしたいと強く思うようになりました。

    しかし、当時(現在も)日本ではまだサービスデザインという学問は主流ではなく、学ぶことのできる環境というのはごくわずかで限られており、かつ存在していたとしても美大出身ではないとそもそも受験資格がないという状況でした。そこで海外の大学、特にデザイン学の精通しているイギリスに視野を向けて大学院を探し始めることにしました。海外に視野を向けたのはよいことだったのですが、それでも唯一といってもよいくらいサービスデザインを学べる大学院というのは少なく、The Glasgow School of Artはその数少ないうちの一つでした。

  • The Glasgow School of Artに決めた理由
  • 受験面接の際に担当教授が教えてくれた、Aes-ethic(Aesthetic〈美〉とEthic〈倫理〉 の造語)という言葉に感心し、デザインにもこのような倫理観を必要とする線引きや選択の重要性を学びました。そういった大切な概念を根底に研究ができる学校なんだなと思い、The Glasgow School of Artで学習することを決意しました。

    またこのコースは、サービスデザインの経済的重要性だけでなく、上記のような社会的価値にも焦点を当てているものとなっています。それは、様々な人の視点を理解することによって、人々の生活に影響を与える問題にどのようなアプローチをもって対処するのが最適かということに重きを置いているところでした。そうすることで得られる価値観の違いは、人が心理的な障害を克服する方法についての私の視野を広げ、異文化問題におけるアートやデザインの役割についての理解を深めてくれると信じています。つまり、人々の経験とニーズをデザインする過程の中心に据え、彼等のニーズと能力に合わせた有意義な体験を生み出す方法を研究できる環境となっていると思ったからです。

    Q 大学院生活ではどのような経験をしましたか?

    大学院生活では毎日プロジェクトや課題に追われていました。一人で黙々と進める日もあれば、仲間と和気あいあいと進める日もありました。

    勉強以外では映画が好きということもあり、日本ではまだ公開されていない映画を先に観ることができる嬉しさを噛みしめていました。

    またヨーロッパが比較的近いということから、ドイツの大学院で研究をしている友人に会いに行くこともあり、感動の再会を果たしたこともありました。(その友人はスウェーデンで出会った日本の方で、たまたま日本で住んでいる場所が隣の駅というミラクルな出会いをした人となっています...!)

    Q 受講したモジュールをいくつか教えてください

  • Healthy Hearts
  • 教授から頂いたテーマを元に、問題提起から改善策の提示までをグループで行うものでした。
  • Effective Policing
  • こちらは現地の警察と提携を組み、上記同様問題提起から解決策の提示をグループで行うものでした。
  • Masters Research Project
  • こちらは修士プロジェクト、修士論文に焦点を当てたモジュールです。修士プロジェクトはグループワークではなく個人ワークとなっており、今まで培ってきたものを最大限に発揮する場となっておりました。
  • Core Research Methods
  • こちらはリサーチや研究をどのように進めていけばよいかを研究するための学問となっており、全モジュールの根底となるような授業でした。
  • Elective: Introduction to 3D Modelling & Animaiton
  • メインプロジェクトのほかに選択授業があり、その中でも私はあえてサービスデザインとは関連のない3Dモデリングの授業を受講しました。そうすることで将来何らかの形でサービスデザインに携われるようになった際に、それを伝達する手段の一つに3Dモデリングの技術を応用できたら表現の幅が広がると思ったからです。


    Q セメスター期間中の学習について教えてください

    カリキュラムは三期に分かれておりまして、順にいくつかの小さなグループワーク、ひとつの大きなグループワーク、そしてファイナルの個人ワークというようになっておりました。

    全グループそれぞれ異なった大まかなテーマを言い渡され、インタビューや調査を進めて問題提起をし、その課題改善に向けてサービスをデザインする、考えるというものでした。私の場合特に印象に残っているものは上記の "Effective Policing" と "Healthy Hearts" がテーマのものです。

    前者は地元の警察やNHSの方と連携してグループですすめていくというもので、後者は "How might we improve cardiovascular health and adress health inequalities?" というテーマの元、インタビュー、リサーチ、フィールドワーク、そして改善案や施策の施行を繰り返し行うことによって以下の改善策の提示まで達成することができました。最終的に以下のプログラムを提案させて頂くことになりました。

    "A program bridging communication between care providers via the NHS patient profile system; to improve cardiovascular health through early detection in primary school as a means of prevention"(「NHSの患者プロファイルシステムを通じて、医療提供者間のコミュニケーションを橋渡しするプログラム; 予防の手段として、小学校での早期発見を通じて心臓血管の健康を改善を図る」)

    Q 修士論文の内容は?

    美大という扱いだったので修士論文ではなく修士プロジェクトというもので進めておりました。プロジェクト(サービスや政策など)の立案とそのプレゼン、そしてそれらを作成するにあたった過程をまとめた60ページほどの Personal Project Journal の提出が求められました。

    修士プロジェクトでは今までグループワークで行ってきたことを個人で実行する場となっておりました。期間も長く、その分取り上げる問題は複雑で難解なものを自身で提起してくるというものでした。取り上げる問題のジャンルや内容は完全に個人に任されていた為、折角ならなにか身近な人の役に立つテーマにしたいと考えた私は、仲良くして頂いている友人が抱えている「子宮内膜症」に焦点を当てることにしました。そしてスコットランドと日本の比較文化ができたらいいなということで、ターゲットエリアを日本に絞ることにしました。そんな中リサーチなどを行い、最終的に提起した問題とその改善案が以下のものとなっております。

    "Designing a workplace kit-of-parts which aims to enhance the Quality of Life of graduate employees in Japan, with a focus on women with endometriosis"(「子宮内膜症の女性に焦点を当てて日本の新卒社員のQOL向上を目的としたサービスのデザイン」)

    これは将来的には子宮内膜症をもつ方だけでなく、その他疾患や病気、また人に言いづらい悩みがある方にも居心地がよくなることを最終的な目標としており、私の考えの根本にあるインクルーシブという考えをもととしたデザインを目指しました。

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    Q 課外活動は何かされていましたか?

    カリキュラム外でも同じ志を持った友人たちと24時間でデザインプロジェクトを完遂させなければならないハッカソンに参加し、ファイナルの4組まで残ることも成し遂げました。悔しくもそれ以上へは進めなかったのですが、優勝することそのものよりも自身が学んでいることを大きな場でいかせたことや、仲間と寝る間も惜しんで切磋琢磨できたのは貴重で大切な経験でした。

    また、別のアワードにもチャレンジすることによって自分たちの実力を測ったり、学んだことがどう社会に認識してもらえるかを感じることができる環境に飛び込むこともよくしていました。

    Q 最後に、現在と今後について教えてください

    現在は新産業領域への人材支援を中心とする各種サービスを提供している日本の会社にて、デザイナーとして働かせて頂いております。そこでは私が大学院で学んだサービスデザインやユーザー視点、そしてグループワークやコミュニケーションなど、様々な側面を業務に活かすことができるよう日々精進させて頂いています。

    まだまだ日本に浸透していないサービスデザインという学問ですが、ユーザーの視点に立ち彼らが本当に求めていることはなんなのか考えることはどの業界においても大切であり、すでに取り入れられていることかと思います。そんな「当たり前のこと」を学問という概念として改めて社会に周知させることは、ダイバーシティーやインクルージョンに重きを置かねばならない現在の日本社会において大変意義のあることかと思っています。

    今は社会に対して何の力もない私ですが、一歩一歩私なりに進めていかせてもらえたらなと考えています。この考えが波紋のように、少しずつ広がっていくお手伝いができるよう、これからも一生懸命努めていきたいと思います。

    最後までお読みいただきありがとうございました。スコットランドでの留学について少しイメージが湧いてきましたでしょうか?ご不明点はscholarship@jpn-scot.org (スコットランドの修士課程留学奨学金係)までお気軽にご連絡ください。お待ちしています!