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「留学体験記」The University of Edinburgh 哲学、KWさん

27.Oct.2023 

皆さん、こんにちは!日本スコットランド交流協会です。
スコットランドへ留学をされたJSA奨学生のKWさんよりレポートを頂きました!

〈目次〉
・オンライン留学になったきっかけ
・オンライン留学のよかったこと
・オンライン留学のデメリット
・結論


筆者のエディンバラ大学への留学は、いわゆる「コロナ禍」によってオンラインとなってしまった。状況が終息を迎えたといってよい現在にあって、筆者のオンライン留学の経験が後進の参考になるかは疑わしい。とはいえ、この経験は、リモートワークやリモート学習が広範にみられるようになった事実を鑑みると、オンライン留学一般のひとつの体験談として貢献できるかもしれない。そのような思いを込め、筆者のオンライン留学の顛末をここに記録しておく。


オンライン留学になったきっかけ
オンライン留学という選択に至った経験を辿っておく。筆者がオンライン留学という選択を取ったのは、渡航すると奨学金が止まってしまうのが主要な理由であった。コロナが世界で流行し始めてから、外務省の感染症危険レベルがほぼ全地域に渡って引き上げられ、それ以降、ほぼ全ての国が危険レベル3(渡航中止勧告)になっていた。これに対応して、筆者が受給している日本学生支援機構(JASSO)の海外留学奨学金(学位取得型)は、基本的に中止になった。しかし、「渡航せずオンラインで受講する場合に限り支給を継続する」という特例が設けられた。このため、日本でオンライン受講しながら奨学金を受講することが可能になった。
ここに至るまでは紆余曲折があった。コロナ前は当然なかった特例なので、JASSOの対応は二転三転した。また、渡航は(しようと思えば)可能なのに、オンラインでしか支給を認めないJASSOへの不満が噴出し、受給者たちの抗議キャンペーンも行われたが、この決定は変わらなかった(なお、渡航した場合の奨学金の扱いは、奨学金に依る。渡航しないと支給を認めない奨学金もある)。日本スコットランド交流協会は、非常に柔軟に対応してくださった。


オンライン留学のよかったこと
かくしてオンライン留学になってしまったわけだが、以下ではオンライン留学のメリットとデメリットについて気づいたことを記録しておく。

メリット1:生活費がかからない
自宅から受講できるので、海外の生活費(家賃・食費・交通費)がかからない。それでいて、団体によっては奨学金(授業料・生活費)が受給できるので、人によっては収支がプラスになることも考えられる。現在の円安を考えると、このメリットはひじょうに大きくなっている。JASSOをはじめ、奨学金の基準は10年以上も一定のものが多く、現在の円安状況に対応していないという声がある。海外で生活するには全く足りないという意見も増えている。

メリット2:リスクが少ない
ヨーロッパの大学では、対面授業がほとんど停止されていて、渡航したとしても部屋から一歩も出ることがないケースがあった。その場合、オンライン留学の方が、経済的にも・感染症対策的にも、ローリスクだった、たとえば、エディンバラ大学では、授業がほぼ全てオンライン化していた・数人以上の集まりが禁止されていたこともあり、「せっかく大学にいるのに部屋から出ていない」といった不満が噴出していた。現地にいた外国人学生が母国に引き返すケースも多かった。せっかく渡航したのにお金だけかかって帰国するのは最悪なので、自宅からオンライン受講するのが、最もリスクの少ない選択肢となった。

メリット3:オンライン授業の利点
オンライン授業のよいところは、授業やディスカッションがフレキシブルなことである。授業は録画されていていつでも受けられるし、セミナー(ディスカッション)も複数のタイムスロットが用意されていることが多い。これによって、授業が自分のペースで受けやすくなった。たとえば「予習が終わっていないのに授業を受けざるを得ない」みたいなケースがなくなった。
また、掲示板などでの文面ベースでのディスカッションは、対面での会話より勉強になることも多かった。対面ディスカッションは、声が大きい人間が話し続ける傾向があり、また、互いに言いたいことを言うために議論が噛み合わないこともあった。会話に自信がないと発言できずに終わることも多い。ひるがえって、文面のディスカッションではそういう問題がなく、ゆっくり準備して的確なコメントをすると良いレスポンスが来て勉強になった。

メリット4:日本で活動できる
オンライン留学の場合、日本で仕事・家事をしながら、あるいは研究活動を行いながら留学することができる。筆者の場合、留学中に学会発表・論文投稿を行うことができた。これは筆者のキャリアにとっては(結果的に)大変重要なファクターになった。この間に日本で業績を積んだことが大きな要因となり、日本学術振興会の特別研究員に選ばれることができたからである(むろん、留学経験もアピールポイントになった)。とはいえ、コースワークの量によって、このような両立がかなり難しいことには注意が必要である。


オンライン留学のデメリット
オンライン留学には意外に良いところも多い。渡航しないで、日本で活動しながら(支出をセーブしつつ)留学先の授業を受けることができる。とはいえ、デメリットも残念ながらたくさんあった。

デメリット1:講義の質の問題
日本の大学でのオンライン授業全般に言われていることだが、録画講義は退屈になりがちで、疲れるし、集中力が持たない。授業によっては、録画講義すらないものもあった。また教員によってオンライン授業作成のスキルに差があるように感じた。あるいは、何年も使いまわされているようなオンライン講義も散見された。

デメリット2:オンラインでのセミナーの問題
オンラインセミナーは、オンライン会議システムを使って、先生と生徒がディスカッションするものだが、これも講義と同様の問題があった。疲れるし集中力が持たない。また、別の問題もあった。マイクが悪い生徒の早口の英語など、聞き取りようがない。筆者はリスニング能力に自信があったが(IELTSリスニングは8.5/9.0だった)、相手が何を言っているか全くわからない状況が多発した。ディスカッションにならないし、大抵音は悪いので、聞き取る気が失せてきてしまう。

デメリット3:友達・授業外の活動ができない
オンラインで留学する場合、よほどの覚悟がないと友達はできないと感じた。また、授業外のつながり・サークル活動・研究活動などは、オンラインのためかなり参加が難しい。仮にオンラインイベントがあっても、日本からオンライン留学する場合は時差があり、とても参加できる時間ではない。筆者は学部時に交換留学しており、そこで友達を作ったが、あの楽しさはオンライン留学には全くなかった。また、コロナ前の留学では、研究グループなどの活動が盛んだったが、コロナ禍ではほとんど停止しており、再開されたものも対面が多かった。

デメリット4:授業料は変わらない
授業の質・課外活動の質が落ちているのにもかかわらず、授業料は変わらないという問題があった。対面に比べてかなり質が落ちるオンライン授業でも、授業料はほとんど対面と変わらない基準のコースも多かった。現在のフルオンラインのコースでも、かなりの授業料を取るコースも多く、事前に授業料をチェックする必要があるだろう。


結論
 オンライン留学に至った顛末と、筆者が感じたメリット・デメリットをここまで記してきた。筆者は、「留学をしながら日本でアカデミックキャリアを積む」という、非常に特殊な理由によって、結果的にオンライン留学でよかったと総括してはいるものの、日本で何かをやるべき特別な事情がなければ積極的に対面留学すべきだと考えている。留学には、まちがいなく、講義受講・学位取得以上のものが含まれており、そして、それが留学経験にとって決定的に大事だと考えるためである。馴染みのない場所でじぶんのアイデンティティを問いなおし、友と知り合い、ときに砕かれつつも新たなじぶんと出会うこと。これを真剣に繰り返すことができる。その繰り返しのうちで犯した失敗も、鬱々と部屋に溜め込んだ苦しみも、生まれ変わったことの喜びも、すべて留学先に置き去りにして、ふたたび馴染みの場所へと帰還する。留学は、このような清々しい変身の経験を短い時間でもすることができる。


最後までお読みいただきありがとうございました。スコットランドでの留学について少しイメージが湧いてきましたでしょうか?本年度の募集はしばらくお待ち下さい。ご不明点はscholarship@jpn-scot.org (スコットランドの修士課程留学奨学金係)までお気軽にご連絡ください。お待ちしています!